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オリオンの立ち位置。
2008.09.12 |Category …Moira
今回はオリオンについて、です。
大変長いのでご注意下さいね!
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▽つづきはこちら
今回はオリオンの立ち位置について少し考察してみたいと思います
■確定している経歴
彼自身について確実にわかっていることは、あまりありません。
・エレフの奴隷仲間(恐らく暴行も受けていた)だった/「死と風と嘆きの都」
・エレフ・ミーシャと共にイリオンを脱出/同上
・弓の名手として東方の武術大会で優勝/「遙か地平線の彼方へ」
・「王子さま」であるという噂を立てられる(少なくともアルカディアの王子としてなら偽)
■可能性の強い経歴
・神域を侵された星女神の憤怒により弓矢を授かった/「死せる乙女その手には水月」
「弓矢の名手」として明示されているのは彼のみであるため
疑問点/何故彼が「星女神の寵愛」を受けていたのか。
・レオン殿下、エレフ、ミーシャの父王を殺害/「奴隷達の英雄」
「傀儡と化した王、かつての勇者」という並びから、王=かつての勇者と読める
「嘗ての勇者」という言葉に対し、レオン殿下の「勇者デミトリウスが子」という台詞が対応する。
「射手」に対応出来る弓使いが彼しか存在しない
疑問点/何故、国王軍にいたと思われる(後述)彼が自国国王を殺す必要があったのか
・スコルピオス殿下の手によって殺害される/同上
・アルカディア軍にいたと思われる/「死せる英雄達の物語」
エレフの台詞「オリオン亡き今、奴らはただの雑魚にすぎぬ」
■関連性の強いギリシア神話(関連性の強そうなもののみ抜粋)
ギリシア神話でのオリオンは海神ポセイドンの息子で弓の名手。月の女神アルテミスの恋人。
アルテミスの兄、アポロンの嫉視を買い、蠍を差し向けられた。慌てた彼は海上に逃れる。アポロンは、それがオリオンとは気づかないアルテミスを「あそこまでお前は射ることができないだろう」と挑発し、自らの手でオリオンを射殺させてしまう。
その死を悲しんだアルテミスは父ゼウスに願い、彼を星座にした。
■以上より考察
○幼少期
彼はごく普通の奴隷であったと考えられます。
まず、「王子さま」がエレフであることを間違いありません。また、アルカディア以外の王家が「王子さま」を捨てたということも考えられないわけではありませんが、それまでに一切その記述がなく、また、他の国家が関わってこないことから、度外視して構わないと思われます。
また、ポリュデウケス夫妻の子供、という説を見かけたこともありますが、これも否定すべきであると考えます。そもそも、エレフ・ミーシャがポリュデウケス夫妻に預けられたのは、彼らが預言の「滅びを紡ぐ者」であると考えられたからであると思われます。だとすえば、その始末としては、殺してしまうことが手っ取り早く確実であると考えるのが自然でしょう。
これを助命するべくポリュデウケス夫妻が引き取ったというのはほぼ間違いないでしょう。
ここで、仮にポリュデウケス夫妻のところに双子なりなんなりがいて、取り替え子をする、という話になったとします。もしそうならば、彼は外見上「自分の子供を育てているだけ」の状態になります。だとすれば、わざわざ「アルカディアの双璧」と謳われた勇者が隠遁生活を営む理由がありません。堂々と「自分の子供達」を養育していればいいのですから。
そこで、ポリュデウケス夫妻は、エレフとミーシャを引き取って失踪に近い形で身を隠したものと思われます。このとき仮に夫妻に実子がいたのならば、身を隠す以上わざわざ捨てる必要がありません。或いは、エレフとミーシャの代わりに殺された後だと考えるのが自然であると思われます。よって、ここにオリオンの入り込む余地はありません。
以上より、オリオンはアルカディア王家及びポリュデウケス夫妻とは何の関係もない存在であると思われます。
○アナトリアでの優勝後から「死せる乙女」まで
◇武術大会での優勝とその影響
イリオン脱出後「風神」の怒りにより、エレフ・ミーシャとは離ればなれになったと推測されます。これは「遙か地平線の彼方へ」及び「聖なる詩人の島」のいずれにも彼が登場しなかったことからほぼ確実であると思われます。
その後の彼の足取りを確実に追うことは不可能ですが、イリオン脱出時(声の感じや振る舞いからすれば、10代前半でしょうか)に、神殿付きの兵を振り切るだけの弓術を身につけていたこと、およびヘレネス同士の争いさえあった時代(「雷神域の英雄」より)であることを考えれば、傭兵などで身を立てることもあったのではないでしょうか。
そして、アナトリアの武術大会で優勝。この「アナトリア」とは、恐らく現実のアナトリア半島、海を挟んでギリシアの真向かいに当たります。仮にこの時代をトロイア戦争のころと仮定するのならば(トロイア=イリオンであるため)、当時のアナトリアはヒッタイト帝国の末期にあたります。
この優勝によって、彼はアルカディアでの兵士の地位を得たのではないでしょうか。それも一般兵ではなく、指揮官クラスであったと思われます。
まず、王国軍にいたという点についてはエレフの「オリオン亡き後」という台詞から、少なくとも彼が東方の鉄器の国(=ヒッタイト。ヒッタイトは青銅器時代の末期、最初に鉄を用いた国家であるため。) に奔ったエレフと敵対していたことがわかります。また、あのシーンはイリオン攻略戦であったため、アルカディア軍に与していたことはほぼ間違いないでしょう。
また、一兵士であればエレフの口から真っ先に「オリオン」という固有名詞が出るはずもありません。
そこで彼は武術大会での優勝を有効に用いたものであると思われます。
◇「王子さま」伝説
市井でオリオンは「忌み子として捨てられた王子さま」であると噂を立てられていました。これは一体何を指すのでしょうか。
結論から言えば、これは貴種流離譚に憧れる市井の無責任な噂、及びオリオン自身の、その噂の利用にすぎないものであると思います。
前述のように、オリオン自身は王家と一切関わり合いのない身の上であることが一つ。
次に、「忌み子として捨てられた王子さま」という存在について。神託の内容を一般庶民が知ることが出来るのであれば、国家的な出来事である王子(正確には双子でしたが)の誕生とそれを結びつけるのは難しくないはずです。つまり、神託のない用を知った上で、祝賀ムードだった王子、或いは王女の誕生が全く祝われない時点でその子の行く末については想像がつくでしょう。
ここで、やや論理は飛躍しますが「貴種流離譚」つまり、「流浪の王子さま、王女様」といった存在への庶民の同情意識、憧憬意識が働きます。日本で言えば「義経生存伝説」とか「真田幸村・豊臣秀頼生存伝説」に近いものがあるでしょうか。「王子さまは実は生きている」といった噂話、或いは同情に基づく根拠のない想像が下地にあったとします。
ここにオリオンが突如として登場します。頭の回転がよく(「弓が撓り弾けた焔 夜空を凍らせて撃ち」なんて頭がよくなければ絶対に出てこない台詞かと(笑))弓の名手、というだけで一般市民の目は彼に向きます。また、オリオンは元々奴隷であり、そこから抜け出そうという意識はかなり強かったと思われます。ここで彼が上に食い込むために存在しない「王子さま」伝説を利用するとしたらどうするか。
「俺は、蝕まれた日に捨てられていたんだ」
この一言だけで噂は広がります。真実か否かはどうでもよく、「真実である可能性がある」というだけで人はおもねるし、上手く行けば本当に王宮から迎えが来る、と考えたのかも知れません。オリオンの目的は達成されるといえるでしょう。
最も、少なくともカサドラ王妃は自分の息子がエレフであることを認識していました。そこで、カサドラ王妃、及び彼女の影響が強いであろうレオン殿下は、オリオンが第二王子であるという認識は持っていないと思われます。
◇ミーシャとの再会?
ここでギリシア神話を思い出します。ギリシア神話のオリオンはアルテミスを恋人にしていました。言うまでもなく「アルテミシア(アルテミスの女性形変化)」です。根拠はこれだけなのですが、アルカディア軍に入ったオリオンは、星女神の神殿に巫女として仕えていたミーシャと再会したのではないでしょうか。同じ国内の、公的施設に仕える者同士、可能性はゼロではありません。最も、ミーシャがエレフにしか「ごめんね」と言っていないので(「死せる乙女その手には水月」より)オリオンの片恋、若しくは友情でしかないのかも知れませんが。
仮にこう考えると星女神からの寵愛を受ける理由も存在します。つまり、星女神の巫女を奪った横暴に対し、女神が弓矢を授ける相手として、巫女の恋人、ないし親友である弓術の名手は非常に適した人間であったのではないでしょうか。また、このように考えることにより、自国の国王をオリオンが殺害する理由、ミーシャを家kに絵にしたアルカディアへの復讐、という理由をつけることも出来ます。
○「奴隷達の英雄」からその最期
◇蠍との関連
さて、ここでアルカディア王家を見ると、既に王は「傀儡」になっていたようです。誰の、といえばレオン殿下がそういう気性の持ち主ではない以上(女とはいえ敵を殺せない人が自分の父を「傀儡」にするとは思えない)、それは確実に蠍であるはずです。
しかし、その地位はあくまでも「王子殿下」でしかない。(妾腹では、下手をすると「王子」殿下ですらない。大公殿下などの称号を与えられている可能性もある)蠍にとって「世界の「王」」になるためには兄王が邪魔です。そこで、前出の「王子さま伝説」を利用したのではないでしょうか。
蠍の認識では、庶民でしかないオリオンが「王子さま」伝説を立てられているか、また、場合によっては、彼は「王子さま」が生存していることを知っていた可能性もある(奴隷市場に売るより殺した方が手っ取り早くはあるのですが、自分の生まれに復讐したいと考えているのならば、正当な生まれの子供達を屈辱にまみれさせるほうがむしろ彼の溜飲を下げるには役立つでしょう)ので、オリオンが本物の「王子さま」である可能性があるということになっていたでしょう。つまり、一般庶民か、政敵となりうる甥か、ということになります。どちらにせよ、蠍にとって価値ある人間ではありません。
そこで「王子さま」伝説を利用してオリオンに近づき、「お前が国王を殺せば、お前が戴冠出来る」とでも言えばいいのです。これで失敗しようとも、蠍にとって価値ある人間でないことに代わりはないのですから。
一方のオリオンは、ミーシャを殺された恨みをアルカディアに対して持っています。その国王を殺そうという意思は有していたでしょう。また、内情をよく知っていたとしたら、蠍もまた彼の標的であったのかも知れません。蠍が「国王を殺害する確実な状況」を作り出してくれるならば、理由はなんであれそこに乗り、確実にミーシャの仇をとろうとするでしょう。
こうして、蠍の教唆及び、オリオンの復讐によって国王の殺害は行われたものであると思われます。
◇最期
「蠍の毒針に刺された」
要するに、オリオンは蠍に「国王殺害犯」として始末されてしまったのでしょう。蠍としては、自分が唆したという証拠を抹消しなければ自分に「大義」がなくなってしまうのですから、むしろ当然の行動であるといえます。
■おわりに
オリオンは折角いいキャラだったのに、明確な出番が少なくて非常に勿体なかったと思います。彼の行動次第によって物語の解釈は変わってくるので、機会があればまた考察しなおしたくもあります。
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